経営管理ビザの取得や更新に際して「事業所の確保(存在)」及び「事業の継続性」の2点が問題になることがあります。
この「事業所の確保(存在)」及び「事業の継続性」の認定をするに当たって、その基準が不透明である指摘されてきました。
そこで法務省では「事業所の確保(存在)」及び「事業の継続性」に関してガイドラインを示すこととなりました。
それでは、「事業所の確保(存在)」及び「事業の継続性」の基準のどこが不透明で、どのようなガイドラインが設定されたのかをみてみましょう。
「事業所の確保(存在)」及び「事業の継続性」
まずは、「事業所の確保(存在)」及び「事業の継続性」はどういった基準が設けられているのかを見てみましょう。
「事業所の確保(存在)」の認定基準
経営管理ビザは「事業を営むための事業所として使用する施設が本邦に確保されていること」又は「事業を営むための事業所が本邦に存在すること」という基準が定められています。
原則としては住居と事務所は別々にすることが望ましいのですが、住居としても使用している施設を事業所と定めて事業を行うことを認める場合もあります。
どういった場合に住居と事業所が同じ施設でも認められるのかという点が不透明だという指摘がありました。
「事業の継続性」の認定基準
「当該事業の経営・管理という在留活動を継続して行うことができる」ということも条件とされています。
しかし、諸般の事情により赤字決算となっていても、在留活動の継続性に支障はない場合も想定されます。
そういった場合、赤字であるから更新不可とはならず、諸般の事情を考慮して、更新を認めて、次回の更新時に改めて決算を見て決めるという判断になることもあります。
認定基準のガイドライン
このように事務所や決算内容に関しては基準を満たしていなくても事情によっては認められる場合もあります。
これが「基準が不透明」と指摘されてきた原因なのです。
そのため、法務省では「事業所の確保(存在)」及び「事業の継続性」に関して基準のガイドラインを設定したのです。
それでは、何を基準にして経営管理ビザの更新の判断がされるのかを、ガイドラインに沿って、わかりやすくご説明したいと思います。
事業所の確保について
総務省が定める日本標準産業分類一般原則第二項において、事業所については次のように定義されています。
- 経済活動が単一の経営主体のもとにおいて一定の場所(一区画)を占めて行われていること。
- 財貨及びサービスの生産又は提供が,人及び設備を有して,継続的に行われていること。
以上の二点を満たしている場合には,基準省令の「事業所の確保(存在)」に適合しているものと認められます。
つまり、住んでいるところと仕事をするところ(事務所)の区別を明確に分けて、事務所部分に机や椅子、パソコン、FAXなどの設備をおいて継続して事業をすることが出来るようになっているということになります。
さらに「経営・管理」の在留資格に係る活動については、「事業が継続的に運営されること」が求められます。
バーチャルオフィスや月単位の短期間賃貸スペース等を利用したり、容易に処分可能な屋台等を利用したりする場合には、継続的に運営できるとは判断されず、「事務所の確保」とは認められませんので注意が必要です。
賃貸物件の事務所の条件
事業所を確保する場合、一般的には賃貸物件で探されると思います。
その場合は以下のような条件があります。
- 賃貸借契約で事業用の使用目的であることを明らかにすること。
- 賃貸借契約者について当該法人等の名義とすること。
- 当該法人等による使用であることを明確にすること。
日本では、特にマンションの場合、「住居以外の使用はできない」と決めているケースが多いため、賃貸借契約時に事務所や店舗として使う事を明確にして、貸主に使用を認めてもらわなければいけません。
また、契約者は個人ではなく法人名(個人事業主の場合は個人名)で契約して、借りた物件を他の人に貸す(転貸)のではなく、自分自身で使用することも明確にしておかなければいけないとされています。
住居と事務所を同じ施設で利用する場合
住居として賃借している物件の一部を使用して事業が運営されるような場合には、以下のような条件が定められています。
- 住居目的以外での使用を貸主が認めていること。
- 借主も当該法人が事業所として使用することを認めていること。
- 当該法人が事業を行う設備等を備えた事業目的占有の部屋を有していること。
- 当該物件に係る公共料金等の共用費用の支払に関する取決めが明確になっているこ。
- 看板類似の社会的標識を掲げていることを必要とします。
住居として借りた物件の一部を事務所として使用する場合、賃貸借契約の契約者は住居として住む個人になります。
この場合、物件を借りた個人(社長)が、さらに借りた部屋の一部を法人に貸し出すような契約になります。
これを転貸といいます。
この個人から法人に事業所として転貸借されることを物件の貸主が同意している必要があります。
また、一つの物件で住居と事務所にする場合、光熱費などをどのような割合で負担するかも明確にしておかなければいけません。
事務所が存在していることを明示するために、看板などを掲示することも必要です。
「住居」を事業所とした場合の許否事例
それでは、今まで見てきた条件から判断して、経営管理ビザが許可された事例と不許可となった事例をご紹介したいと思います。
事例1 使用目的(許可事例)
個人経営の飲食店を営むとして在留資格変更申請を行ったAさん。
事務所にする物件の賃貸借契約で、使用目的が「住居」とされていました。
しかし、貸主との間で「会社の事務所」として使用することを認めるとする特約を交わしていたので、事業所が確保されていると認められました。
事例2 使用目的(不許可事例)
合同会社を設立し、設計会社を営むとして在留資格変更許可申請を行ったBさん。
提出された資料から調査がおこなわれました。
調査の結果、事業所が法人名義でも経営者の名義でもなく、従業員名義であり同従業員の住居として使用されていたことが判明しました。
当該施設の光熱費の支払いも同従業員名義であることが判明しました。
更には、当該物件を住居目的以外での使用することの貸主の同意が確認できなかったことから、事業所が確保されているとは認められないという結果となりました。
事例3 事業目的占有の部屋(許可事例)
株式会社を設立して、販売事業を営むとして在留資格認定証明書交付申請を行ったCさん。
会社事務所と住居部分の入り口は別々の建物で、事務所入り口には会社名を表す標識が設置されていました。
事務所にはパソコン、電話、事務机、コピー機等の事務機器が設置されるなど事業が営まれていることが確認され、事業所が確保されていると認められたもの。
事例4 事業目的占有の部屋(不許可事例)
合同会社を設立し、当該法人の事業経営に従事するとして在留期間更新許可申請を行ったDさん。
事業所がDさんの居宅と思われたことから調査されました。
郵便受けや玄関には事業所の所在を明らかにする標識等がありませんでした。
室内には、事業運営に必要な設備・備品等は設置されておらず、従業員の給与簿・出勤簿も存在しませんでした。
室内には日常生活品が有るのみで事業所が確保されているとは認められないという結果になりました。
事業の継続性について
次に、「事業の継続性」に関してみていきましょう。
「事業の継続性」については、今後の事業活動が確実に行われると見込まれることが必要です。
しかし、単年の決算だけをみると、事業活動の様々な要因で、赤字決算となってしまうこともあります。
そこで、単年度の決算状況を重視するのではなく、貸借状況等も含めて総合的に判断することが必要になることから、直近二期の決算状況により次のとおり取り扱うこととされています。
事業性を見るための用語
事業の継続税のガイドラインをご紹介する前に、継続税の判断の指標となる語句をご紹介します。
普段はあまり使う機会の少ない言葉もありますので、出来るだけわかりやすくご説明でしたいと思います。
直近期
直近の決算が確定している期のことをいいます。
会社が9月決算で、2016年5月にビザを更新する場合、直近期は2015年9月決算のものになります。
直近期前期
直近期の一期前の期のことをいいます。
会社が9月決算で、2016年5月にビザを更新する場合、直近期前期は2014年9月決算のものになります。
売上総利益(損失)
純売上高から売上原価を控除した金額のことをいいます。
一般的に「粗利」とも呼ばれることがあります。
剰余金
法定準備金を含むすべての資本剰余金及び利益剰余金のことをいいます。
欠損金
期末未処理損失、繰越損失のことをいいます。
債務超過
負債(債務)が資産(財産)を上回った状態のことをいいます。
債務超過となると貸借対照表上の「負債の部」の合計が同表の「資産の部」の合計を上回った状態になります。
直近期又は直近期前期において売上総利益がある場合
事業の継続性を判断する大きな指標の一つが「売上総利益」です。
先程ご説明しましたように、売上総利益とは、商品または製品の売上高から売上げられた商品または製品の売上原価を差引いた差額で、「粗利」と呼ばれることもあります。
売上総利益がある場合でも、以下のように欠損金がある場合は状況によって判断がことなります。
直近期末において剰余金がある場合又は剰余金も欠損金もない場合
直近期において当期純利益があって、同期末において剰余金がある場合には、事業の継続性に問題はありません。
直近期において当期純損失となったとしても、剰余金が減少したのみで欠損金とまでならないものであれば、当該事業を継続する上で重大な影響を及ぼすとまでは判断されません。
この場合においても事業の継続性があると認められます。
したがって、「直近期末において剰余金がある場合」又は「剰余金はないが欠損金もない場合」には、事業の継続性があると認められます。
直近期末において欠損金がある場合
(ア)直近期末において債務超過となっていない場合
事業計画や資金調達等の状況によって、将来にわたって事業の継続が見込まれる可能性を考慮します。
今後1年間の事業計画書及び予想収益を示した資料の提出を求めることとして、事業が行われていることに疑義があるなどの場合を除いて、原則として事業の継続性があると認められます。
ただし、当該資料の内容によっては、中小企業診断士や公認会計士等の企業評価を行う能力を有すると認められる公的資格を有する第三者が評価を行った書面(評価の根拠となる理由が記載されているものに限る。)の提出をさらに求める場合もあります。
(イ)直近期末において債務超過であるが,直近期前期末では債務超過となっていない場合
債務超過となった場合、一般的には企業としての信用力が低下し、事業の存続が危ぶまれる状況となっていることから、事業の継続性を認め難いといえます。
しかし、債務超過が1年以上継続していない場合に限り、1年以内に具体的な改善(債務超過の状態でなくなることをいう。)の見通しがあることを前提として事業の継続性を認めることとします。
具体的には、直近期末において債務超過になった場合はどうなるのでしょうか。
直近期前期末では債務超過となっていない場合には、中小企業診断士や公認会計士等の企業評価を行う能力を有すると認められる公的資格を有する第三者が、改善の見通し(1年以内に債務超過の状態でなくなることの見通しを含む。)について評価を行った書面(評価の根拠となる理由が記載されているものに限る。)の提出を申請者に求めることを条件として、当該書面を参考として事業の継続性を判断することとします。
(ウ)直近期末及び直近期前期末ともに債務超過である場合
債務超過となって1年以上経過しても債務超過の状態でなくならなかったときは、事業の存続について厳しい財務状況が続いていること及び1年間での十分な改善がなされていないことから、事業の継続性があるとは認められません。
直近期及び直近期前期において共に売上総利益がない場合
企業の主たる業務において売上高が売上原価を下回るということは、通常の企業活動を行っているものとは認めらません。
仮に配当金のような営業外収益や、不動産の売却のような特別利益によって利益を確保したとしても、それが本来の業務から生じているものではありません。
単期に特別な事情から売上総利益がない場合があることも想定されるところ、二期連続して売上総利益がないということは当該企業が主たる業務を継続的に行える能力を有しているとは認められません。
したがって、この場合には事業の継続性があるとは認められません。
「事業の継続性」での許否事例
それでは、事業の継続性の基準で許可となった事例と不許可となった事例をみてみましょう。
事例1 債務超過になっていない(許可事例)
経営管理の在留資格の期限更新をおこなったAさんの会社は、直近期決算書では、当期損失が発生しているものの、債務超過とはなっていませんでした。
またAさんの会社は第1期の決算である事情にも鑑みて、当該事業の継続性があると認められました。
参考指標(売上高総利益率:約60%,売上高営業利益率:約-65%,自己資本比率:約30%)
事例2 資本金の2倍の欠損金(不許可事例)
経営管理の在留資格の期限更新をおこなったBさんの会社は、直近期決算書では、売上総損失(売上高-売上原価)が発生していました。
また、当期損益は赤字で欠損金もあり、欠損金の額は資本金の約2倍が発生していました。
これらの指標から、Bさんの会社の事業の継続性を認めらませんでした。
参考指標(売上高総利益率:約-30%,売上高営業利益率:-1,000%超,自己資本比率:約-100%)
※各種計算の手法は提出された直近期の決算書をもとに以下のとおり算出(利益はプラス,損失はマイナス。)
売上高総利益率=売上総利益(損失)÷純売上高×100
売上高営業利益率=営業利益(損失)÷純売上高×100
自己資本比率=自己資本(剰余金又は欠損金を含む)÷総資本×100
まとめ
いかがでしたでしょうか。
事務所の確保と事業の継続性は在留資格の不許可の理由によくあげられる項目でもあります。
「経営管理」という在留資格は、日本で事業をおこなって、きちんと利益を出して、きちんと納税をしてもらうという資格でもあります。
ですから、継続性がなく赤字で納税も出来ないという事業であれば、資格を付与することはできないという判断をされてしまう可能性があることをご理解いただけるかと思います。
実現可能な事業計画を基に、あなたの日本での事業がどんどん大きく成長されることを心よりお祈り申し上げます。