在留資格を一度取得すれば、あとはずっと日本で働けると思っている外国人の方もいらっしゃいますが、在留資格は取り消される可能性もあります。
どのような場合に在留資格が取り消される可能性があるのかをわかりやすくご説明したいと思います。
(在留資格に関しましては『在留資格とは』をご参照下さい。)
在留資格の取消しとは
「在留資格の取消し」とは、日本に在留する外国人が「偽りその他不正の手段により上陸許可の証印等を受けた場合」や「在留資格に基づく本来の活動を一定期間行わないで在留していた場合」などに当該外国人の在留資格を取り消す制度です。
平成28年の入管法改正で偽装滞在者対策が強化されました。
「在留資格に応じた活動を行っておらず,かつ,他の活動を行い又は行おうとして在留している場合」という新しい取消事由が定められました(第22条の4第1項第5号)。
改正前までは、在留資格に応じた活動を3か月以上行っていない場合のみ在留資格の取消しが可能とされていました。
平成28年の入管法改正によって、3か月経たない場合においても「留資格に応じた活動を行っておらず,かつ,他の活動を行い又は行おうしている場合」に在留資格を取り消すことが可能となりました。
在留資格の取消しは「入管法第22条の4」で規定されています。
在留資格が取消される場合
在留資格を取り消す対象は、入管法の第22条の4第1項に規定されています。
法務大臣は次のいずれかの事実が判明したときは在留資格を取り消すことができます。
偽りその他不正な手段により許可を受けた場合
「偽りその他不正な手段」とは上陸の申請や在留期間の更新の申請の際に偽変造された文書や資料を提出したり、申請書に偽りの記載をしたり、偽りの申立てをすること等によって許可を受けた場合が当たります。
「退去強制とは」の項目でご説明しますように、悪質性が高い場合は退去強制となります。
悪質性が高い場合
「偽りその他不正の手段」であっても悪質性の高いものとそうでないものがあります。
以下の(1)(2)は悪質性の高いものと判断されます。
(1) 偽りその他不正の手段により,上陸拒否事由該当性に関する入国審査官の判断を誤らせて上陸許可の証印等を受けた場合。
例えば、過去に犯罪歴がある外国人が偽名を使って在留資格を取得するようなケースです。
(2)(1)のほか,偽りその他不正の手段により,本邦で行おうとする活動を偽り,上陸許可の証印等を受けた場合又は本邦で行おうとする活動以外の事実を偽り,上陸許可の証印等を受けた場合。
例えば、単純労働を行おうとする者が「技術」の在留資格に該当する活動を行う旨申告するようなケースです。
A社で技術者として働くという理由で技術・人文知識・国際業務の在留資格を取得した外国人が、実際にはA社で働かずにコンビ二などで単純労働のアルバイトをするようなケースが該当します。
また、調理師の経験がない申請人が自身の経歴を偽って技能の在留資格を申請するような場合なども(2)に該当します。
悪質性が高くない場合
(3)(1)又は(2)に該当する以外の場合で,虚偽の書類を提出して上陸許可の証印等を受けた場合。
偽りその他不正の手段によることは要件となっておらず,申請人に故意があることは要しません。
(4) 偽りその他不正の手段により,在留特別許可を受けた場合。
在留特別許可とは個々の事案ごとに「在留を希望する理由」「家族状況」「生活状況」「素行」「内外の諸情勢」「その他諸般の事情」に加え、その外国人に対する人道的な配慮の必要性と他の不法滞在者に及ぼす影響とを含めて総合的に許否判断する法務大臣の裁量的な処分です。
入管法第50条に規定されています。
この在留特別許可を偽りその他不正の手段により取得した場合は取消し対象となります。
在留資格に基づく本来の活動を一定期間行わないで在留していた場合
「在留資格に基づく本来の活動を一定期間行わないで在留していた場合」とは、次の場合が該当します。
ただし、活動を行わないことについて正当な理由がある場合は在留資格取消しの対象とはなりません。
活動類型資格の場合
活動類型資格とは、入管法別表第一の在留資格(経営・管理,技能,技術・人文知識・国際業務,留学,家族滞在等)を言います。
活動類型資格をもって在留している外国人が、その在留資格に基づく本来の活動を継続して3か月以上行っていない場合に在留資格が取消される可能性があります。
(5) 入管法別表第1の上欄の在留資格(注)をもって在留する者が,当該在留資格に係る活動を行っておらず,かつ,他の活動を行い又は行おうとして在留している場合。
例えば「経営・管理」の在留資格の外国人が、実質的には会社経営はおこなわずに、アルバイトなどで生計をたてているような場合が該当します。
(6) 入管法別表第1の上欄の在留資格(注)をもって在留する者が,当該在留資格に係る活動を継続して3か月以上行っていない場合。
例えば、「技術・人文知識・国際業務」でA社にエンジニアとして勤めていた外国人が、会社を退職して、その後就職活動をせず3ヶ月以上就職せずにいる場合などが該当します。
但し、以下のような場合は「正当な理由」があるものとして在留資格の取消しの対象とはならない場合があります。
- 稼働先を退職後,再就職先を探すために会社訪問をするなど具体的な就職活動を行っていると認められる場合
- 在籍していた教育機関が閉校した後,他の教育機関に入学するために必要な手続を進めている場合
- 病気治療のため長期間の入院が必要でやむを得ず教育機関を休学している者が,退院後は復学する意思を有している場合
- 専修学校を卒業した留学生が本邦の大学への入学が決定している場合
「日本人の配偶者等」又は「永住者の配偶者等」の場合
(7) 「日本人の配偶者等」の在留資格をもって在留する者(日本人の子及び特別養子を除く。)又は「永住者の配偶者等」の在留資格をもって在留する者(永住者等の子を除く。)が,その配偶者としての活動を継続して6か月以上行っていない場合(ただし,当該活動を行わないで在留していることにつき正当な理由がある場合を除きます。)。
つまり事実上婚姻関係が破綻して別居状態のような場合は日本人の配偶者又は永住者の配偶者の在留資格の要件は満たさないということになります。
但し、以下のような場合は「正当な理由」があるものとして在留資格の取消しの対象とはならない場合があります。
- 配偶者からの暴力(いわゆるDV(ドメスティック・バイオレンス))を理由として,一時的に避難又は保護を必要としている場合
- 子供の養育等やむを得ない事情のために配偶者と別居して生活しているが生計を一にしている場合
- 本国の親族の傷病等の理由により,再入国許可(みなし再入国許可を含む。)による長期間の出国をしている場合
- 離婚調停又は離婚訴訟中の場合
中長期在留者が住居地の届出を行わない場合又は虚偽の届出をした場合
「中長期在留者が住居地の届出を行わない場合又は虚偽の届出をした場合」とは、次の場合が当たります。
ただし,(8)及び(9)について、届出をしないことについて正当な理由がある場合は在留資格取消しの対象とはなりません。
(8) 上陸の許可又は在留資格の変更許可等により,新たに中長期在留者となった者が,当該許可を受けてから90日以内に,法務大臣に住居地の届出をしない場合。
転居した場合は、14日以内に市区町村に届け出をします。
市町村への届出とは別に90日以内に法務大臣に居住地の届出をしなければいけません。
(9) 中長期在留者が,法務大臣に届け出た住居地から退去した日から90日以内に,法務大臣に新しい住居地の届出をしない場合。
但し、(8)(9)は以下のような場合は「正当な理由」があるものとして在留資格の取消しの対象とはならない場合があります。
- 勤めていた会社の急な倒産やいわゆる派遣切り等により住居を失い,経済的困窮によって新たな住居地を定めていない場合
- 配偶者からの暴力(いわゆるDV(ドメスティック・バイオレンス))を理由として避難又は保護を必要としている場合
- 病気治療のため医療機関に入院している等,医療上のやむを得ない事情が認められ,本人に代わって届出を行うべき者がいない場合
- 転居後急な出張により再入国出国した場合等,再入国許可(みなし再入国許可を含む。)による出国中である場合
- 頻繁な出張を繰り返して1回当たりの本邦滞在期間が短いもの等,在留活動の性質上住居地の設定をしていない場合
(10) 中長期在留者が,法務大臣に虚偽の住居地を届け出た場合。
「退去強制」とは
「退去強制」とは、日本に滞在している外国人を強制的に日本から退去させることをいいます。
退去強制の対象となるケースは入管法24条(退去強制)で規定されています。
在留資格を取消されて退去強制になるのは「悪質性の高い偽りその他不正な手段により許可を受けた外国人」が在留資格を取消された場合です。
在留資格が取消され、出国命令が出て、出国の準備のための猶予期間中に出国しなかった場合も退去強制の対象となります。
また、「当該在留資格に係る活動を行っておらず,かつ,他の活動を行い又は行おうとして在留している場合」に該当する場合のうち、その外国人が逃亡する可能性があるという相当の理由がある場合は直ちに退去強制の対象となります。
退去強制手続の場合、自ら地方入国管理局に出頭した入管法違反者についても、摘発された場合と同様に身柄を収容した上で一連の手続が行われます。
「上陸許否期間」とは
日本から不法残留等を理由に退去強制された者は、原則として一定期間日本に上陸することはできません。
これを上陸拒否期間と言います。
退去強制された者の上陸拒否期間は退去強制された日から5年です。
過去に日本から退去強制されて再度退去強制された場合の上陸拒否期間は退去強制された日から10年です。
また、日本国又は日本国以外の法令に違反して1年以上の懲役又は禁錮等に処せられた者や麻薬、大麻、あへん、覚せい剤等の取締りに関する法令に違反して刑に処せられた者は上陸拒否期間に定めはなく日本に上陸することができません。
「出国命令制度」とは
退去強制の場合、入管法違反の外国人が自分から出頭してきても身柄を収容されますが、不法滞在者の大幅な削減のためには,その自主的な出頭を促進する必要もあります。
そこで平成16年の入管法改正で、入管法違反者のうち一定の要件を満たす不法残留者は、例外として身柄を収容しないまま簡易な手続により出国させる制度が創設されました。
これを「出国命令制度」といいます。
出国命令対象者は不法残留者(入管法第24条第2号の3,第4号ロ又は第6号から第7号までのいずれかに該当する外国人)であることが前提となります。
不法入国者や不法上陸者は出国命令の対象とはなりません。
不法在留者であることに加えて、以下の5つの条件全てを満たす必要があります。
- 出国の意思をもって自ら入国管理官署に出頭したものであること
- 不法残留以外の退去強制事由に該当しないこと
- 窃盗罪等の一定の罪により懲役又は禁錮に処せられたものでないこと
- 過去に退去強制されたこと又は出国命令を受けて出国したことがないこと
- 速やかに本邦から出国することが確実と見込まれること
出国命令が出された場合、30日を超えない範囲内で出国するために必要な準備期間(出国猶予期間)が指定されます。
この出国猶予期間内に出国しなかった場合、退去強制の対象となるほか、刑事罰の対象にもなりますので注意が必要です。
出国命令を受けて日本から出国した者は、原則として出国した日から1年間は日本に入国できません(上陸拒否期間)。
在留資格取消件数
平成29年の在留資格取消件数は385件で過去最高の数字となっています。
平成28年の294件と比べると31.0%の増加,平成27年の306件と比べると25.8%の増加となっています。
在留資格別
在留資格別に見ると以下のようになっています。
- 「留学」172件(44.7%)
- 「日本人の配偶者等」67件(17.4%)
- 「技術・人文知識・国際業務」66件(17.1%)
取消事由別
取消事由別にみると以下のようになっています。
- 第6号(在留資格に応じた活動を3月以上行わないで在留している)172件(44.7%)
- 第2号(偽りその他不正の手段により,上陸許可等を受けたこと)66件(17.1%)
- 第3号(不実の記載のある文書又は図画の提出又は提示により,上陸許可等を受けたこと)52件(13.5%)
- 第5号(在留資格に応じた活動を行っておらず,かつ,他の活動を行い又は行おうとして在留していること)25件(6.5%)
国籍・地域別
国籍・地域別にみると以下のようになっています。
- ベトナム 179件(46.5%)
- 中国 84件(21.8%)
- フィリピン 30件(7.8%)
在留資格取消の具体例
平成29年に在留資格を取り消しされた具体例をみてみましょう。
入管法第22条の4第1項第1号
上陸拒否事由に該当しないものと偽り,上陸許可を受けたこと
- 過去に出国命令を受けて出国し,上陸拒否期間中であったにもかかわらず,氏名等の身分事項を変更し,上陸拒否事由に該当しない旨偽って上陸許可を受けた。
- 上陸申請,覚醒剤等の薬物を所持していない旨申告し,上陸拒否事由に該当しない旨偽って上陸許可を受けたが,その後,税関において覚醒剤等の薬物を所持していたことが判明した。
入管法第22条の4第1項第2号
第1号に掲げるものののほか,偽りその他不正の手段により,上陸許可等を受けたこと
- 在留資格「日本人の配偶者等」を得るために,日本人との婚姻を偽装して,不実の婚姻事実が記載された戸籍謄本等を提出した上,在留期間更新許可を受けた。
- 当初から在留資格「技術・人文知識・国際業務」の活動に当たらない飲食店のホール業務に従事する予定であったにもかかわらず,偽りの職務内容をもって申請を行い,当該在留資格への変更許可を受けた。
入管法第22条の4第1項第3号
第1号及び第2号に掲げるもののほか,不実の記載のある文書又は図画の提出又は提示により,上陸許可等を受けたこと
- 取消対象者を採用する予定のない会社を勤務先として記載した申請書を提出し,在留資格「技術・人文知識・国際業務」への在留資格変更許可を受けた。
- 在留資格「技術・人文知識・国際業務」をもって在留する夫が実際には就労していない会社の在職証明書を提出することにより,当該夫の扶養を受けることを目的とした妻(取消対象者)が在留資格「家族滞在」の在留資格認定証明書の交付を受けた。
入管法第22条の4第1項第5号
入管法別表第1の在留資格をもって在留する者が在留資格に応じた活動を行っておらず,かつ,他の活動を行い又は行おうとして在留していること
- 留学生が学校を除籍された後に,アルバイト又は犯罪行為(詐欺・窃盗等)を行って在留していた。
- 技能実習生が実習実施先から失踪後に,他の会社で稼働して在留していた。
- 在留資格「技術・人文知識・国際業務」をもって在留する者が,稼働先でのホームページ管理業務を行わず,飲食店で調理・提供を行っていた。
- 在留資格「特定活動(外国人建設就労者)」をもって在留する者が,受入機関から失踪し,他の会社で稼働していた。
入管法第22条の4第1項第6号
入管法別表第1の在留資格をもって在留する者が在留資格に応じた活動を3月(高度専門職は6月)以上行わないで在留していること
- 留学生が学校を除籍された後に,3か月以上本邦に在留していた。
- 在留資格「技術・人文知識・国際業務」をもって在留する者が,稼働先を退職後,当該在留資格に応じた活動を行うことなく,3か月以上本邦に在留していた。
- 在留資格「家族滞在」をもって在留している子が,扶養者たる父親が退去強制となった後も引き続き,3か月以上本邦に在留していた。
入管法第22条の4第1項第7号
「日本人の配偶者等」又は「永住者の配偶者等」の在留資格を有する者が在留資格に応じた活動を6月以上行わないで在留していること
- 在留資格「日本人の配偶者等」をもって在留している者が,日本人配偶者と離婚した後も引き続き,6か月以上本邦に在留していた。
平成28年改正入管法施行前の入管法第22条の4第1項第3号(旧第3号)
第1号及び第2号に掲げるもののほか,偽りその他不正の手段により,上陸許可等を受けたこと
- 在留資格「永住者の配偶者等」をもって在留する者が,永住許可申請をした時点で,配偶者たる永住者との連絡が途絶えており婚姻の実態がないにもかかわらず同居をしている旨申請書に記載するなどして,永住許可を受けた。
- 在留資格「日本人の配偶者等」を得るために,過去の退去強制歴について虚偽の内容を記載した文書を提出し,同在留資格への在留資格変更許可を受けた。
- 在留資格「経営・管理」をもって在留する者が,経営する会社の事務所の賃貸契約を解約したにもかかわらず,引き続き事務所が存在するとして申請書に記載して,在留期間更新許可を受けた。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
在留資格は一度取れば大丈夫ということではないということがご理解頂けたかと思います。
在留資格の条件を満たさない活動をした場合、在留資格は取消される可能性があります。
在留資格が取消された場合、ご自身で出頭すれば出国命令ですむ場合もありますが、退去強制となった場合は5年間日本に入国することができなくなります。
日本で生活の基盤が出来た外国人が日本に入国できなくなるのは、生活する上で大きな障害になると思います。
転勤や転居などをした場合、必ず届出をするようにしましょう。